夜のピクニック2009年02月21日

夜のピクニック (新潮文庫)
恩田 陸
新潮社
売り上げランキング: 24640

このところ外に出かけるのが億劫になるような天候が続いている。そんなこともあって、読書時間が増えたため、今日もまた本の話。
「夜のピクニック」とは、高校3年生の男女を主人公にした青春小説のタイトル。この本を1年くらい前に買っていたのだが、読みそびれていた本だ。
今年の正月にはTV深夜枠でこの小説を原作とした映画が放映されていたので録画しておいたのだが、こちらも見そびれていた。
「天気も悪いし、撮り溜まっている映画でも見て過ごすか」と思い、そこでこの本を思い出したのだ。映画を先に見るか本を先に読むか・・・で、これはいつものごとく迷わずに、先に本を読むことにしたのだ。

どうも「青春小説」「高校生が主人公」ということで、オッサンとしては読み始めは腰が引けていたのだが、どうしてどうして小説は面白く、読後なんだか若かりし頃のことを思い出したりして、切ないような、それでいてジワリと明るい気分にしてくれる小説だった。

小説の舞台は、とある高校の、80kmの距離を一昼夜掛けて歩くというイベント。そのイベントのスタートからゴールまでの間に、登場人物の様々な思いが交錯しつつ、ゴールへ向かって展開して行く・・・という、まさに王道を行く青春小説。
例によって具体的な中身の話はここでは一切触れないが、大事件が起きるわけでもなく、でもなぜか先が読みたい、はやく結末を知りたいと思わせてくれる小説。その結末も決してどんでん返しではなく、予想通り、あるいは期待通りの結末でありながら、そうであることが素直に「良かったなぁ」と思える小説なのだ。

僕も大学のころに所属していたサークルで、同じように一晩中歩き続けるというイベントに毎年参加していた。東京の山手線の原宿駅がスタート/ゴール地点で山手線を内廻りに線路に沿って歩き続ける。一周は約40km(路線長はもう少し短いが)なので、ちょうどマラソンの距離を歩く感じか。すっかり忘れていたそんなイベントのことも、この小説のおかげで思い出すことができた。
小説に比べれば距離は半分だし、時間も短い(距離が短いから当たり前だけど)。年代も少し上だし、人数だってサークルのメンバーだけだからもっとずっと少ない。だが歩き続けて陽が昇る頃には、足は比喩ではなく棒のようになり、肩を並べる友と言葉を交わすのも億劫なほど疲れ果て、それでも歩き続けるあたりは一緒。
不思議なことに、そうした状態のときだからこそ、普段ではほとんど考えないこと、口に出すことがないこと、そうしたことが体からスイーッと飛び出してくるのだ。なんだかすごく不思議な気分。これもまた小説と一緒で、そんな経験があるからこそ、エピソードの舞台としてこの「一昼夜歩き続けるイベント」を使ったということにも、まったく無理を感じなかった。

あまりに疲れる日々の現実に、暗い気持ちを積み重ねるだけでなく、たとえ青臭いと言われようと、たまにはこうした小説を読んで素直で前向きな気持ちになってリフレッシュするのもよいよなぁ・・・。
読後、もちろん録画していた映画も見た。
小説と比べるとテーマ的には制約を受けやすい(映像的に盛り上げにくい)と思うが、比較的原作に忠実な分だけ(セリフまで忠実なところも結構多い)、これはこれでアリかな?
小説が苦手な人はぜひ映画で、この青春ストーリーを追ってみては?と思う。